[メイン2] : 「やぁ、坂凪綾名!」

[メイン2] : 「僕の姿が見えるということは、君はきっと─────」

[メイン2] : 「─────『魔法少女』の才能があるということなんだ」

[メイン2] : 「君さえ良ければ、僕と契約して」

[メイン2] : 「─────魔法少女になってみないかい?」

[メイン2] : 「もちろん、ただで魔法少女になってもらうつもりはないよ」

[メイン2] : 「一つだけ、君が叶えたい『願い』を、叶えてあげるよ!」

[メイン2] : 「何だっていいのさ、死んだ人を生き返らせたい、初恋を成就したい、お金持ちになりたい」

[メイン2] : 「─────『幸せ』になりたい」

[メイン2] : 「どんな願いだって叶えてあげるよ、そのために僕がいるんだからね」

[メイン2] : 「坂凪綾名」

[メイン2] : 「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

[メイン2] : ……この地球上で存在し得ない、見たことの無い、奇妙な白い獣が
小さな少女へと語り掛ける。

[メイン2] : 薄暗い、少女の部屋の中で。
この生物が一体どこから入ってきたのかも分からない、密閉した場所で。

[メイン2] : 時計の針が、カチ、カチと鳴り進む音しか聞こえない
この静かな部屋で。

[メイン2] : 背の小さな、無表情で、ぼーっとしたような少女は
ただ、じっとその獣へ目をやり

[メイン2] : 小首を傾げ

[メイン2] スイムスイム : 「……なんでも?」

[メイン2] : 「もちろんさ、何だって叶えてあげるよ!」

[メイン2] スイムスイム : 少女は、目を閉じ─────。

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム : 「──────────"お姫様"になりたい」

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム : そして少女は、"魔法少女"になった。

[メイン2] スイムスイム : その願いは、おそらくは実現したのだろう。
彼女は……"お姫様"になったのだろう。

[メイン2] スイムスイム : ただ

[メイン2] スイムスイム : その少女は、7歳の、未熟な少女。
童話で読んだ、キラキラ輝くお姫様の姿に憧れた、あどけない幼子。

[メイン2] スイムスイム : 今の自分が、"お姫様"になっているのかどうか
その判別はついていない。

[メイン2] スイムスイム : 特に、日常生活も変わっていない。いつもの、淡々とした日々が流れていくだけ。

[メイン2] スイムスイム : 朝起きて、小学校へ行き、勉強し
家へ帰り、復習し、20時頃に寝る。

[メイン2] スイムスイム : 「………………」

[メイン2] スイムスイム : ………お姫様に、なってない。

[メイン2] スイムスイム : 変わったのは、魔女との戦いの日々だ。

[メイン2] スイムスイム : 魔法少女は、魔力の消費により失われる、魂のエネルギー─────ソウルジェムの、濁りを癒すため
日々、魔女との戦いを繰り返している。

[メイン2] スイムスイム : 何度も言おう、スイムスイムは、未熟な少女だった。

[メイン2] スイムスイム : 生命のことが、よく分からなかった。

[メイン2] スイムスイム : 目の前で蠢く生物に対し、斬りつけ、その命を奪うことに

[メイン2] スイムスイム : ─────何の躊躇も覚えない。

[メイン2] スイムスイム : そうして、スイムスイムの手によって、魔女は駆逐されていった。

[メイン2] スイムスイム : とても"優秀"な、魔法少女だった。

[メイン2] スイムスイム : ─────そんなある日のことである。

[メイン2] : 「やあ坂凪綾名」

[メイン2] : 「君に良い知らせと、悪い知らせがあるよ」

[メイン2] スイムスイム : 寝床へ、アレが現れた。

[メイン2] スイムスイム : 「………?」

[メイン2] スイムスイム : 小首を傾げ、その白い獣─────契約主とも呼ぼうか。
その主を、じっと見て。

[メイン2] : 「坂凪綾名、君の活躍のおかげで、この街の魔女の絶対数はどんどん減っていった!」

[メイン2] : 「この街の平和は、君が守っているも同然だね、さすがだよ!」

[メイン2] スイムスイム : 「……………」
嬉しそうな表情を少しだけ見せながらも、唯無表情。

[メイン2] : 「そして悪い知らせさ」

[メイン2] : 「魔女がいなくなっているということは、それはすなわち……」

[メイン2] : 「"グリーフシード"が足りなくなっている、ということさ」

[メイン2] : 「これの意味は、分かるかい?」

[メイン2] スイムスイム : 「……………」

[メイン2] スイムスイム : 「?」
首を傾げる。

[メイン2] : 「君、いや……この街にいる魔法少女達が強すぎるせいで」

[メイン2] : 「ソウルジェムの穢れを清めるのに必要なグリーフシードが不足してしまえば」

[メイン2] : 「君達魔法少女は、魔法を使えなくなってしまうのさ!」

[メイン2] : 「大変だろう?」

[メイン2] スイムスイム : 「………」
黙ったまま頷き。

[メイン2] : 「というわけで、今から君達魔法少女には」

[メイン2] : 「──────────魔法少女を減らしてほしいんだ」

[メイン2] : その白い獣は、不気味な赤い瞳をスイムスイムへ
ただじっと見つめ、その要求を飄々と述べた。

[メイン2] スイムスイム : 「………お姫様になれる?」

[メイン2] スイムスイム : 少女は、問いを挟んだ。

[メイン2] スイムスイム : 自分は未だ、お姫様にはなっていない。
願いの成就を代償に魔法少女は戦っているはずなのに

[メイン2] スイムスイム : 自分はまだ、叶っていない。

[メイン2] スイムスイム : ……と思い込んでいる。

[メイン2] スイムスイム : 実際には………契約主は

[メイン2] スイムスイム : "お姫様"を、"魔法少女"と解釈
そうしてスイムスイムを契約に持ち込んだわけだが……

[メイン2] スイムスイム : ともかくスイムスイムは─────契約主の依頼をこなし続けている。

[メイン2] スイムスイム : 願いのために。

[メイン2] スイムスイム : そして今回も問うた、お姫様になれるのか?と

[メイン2] スイムスイム : 魔法少女を減らせば、自分はお姫様になれるのか?と

[メイン2] : ─────白い獣は、表情を変えない。

[メイン2] : ただ、明るい声で。

[メイン2] : 「ああ、もちろんさ」

[メイン2] : 「この街にいる魔法少女が減れば」

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] :
        ・・・
「─────君が、お姫様さ!」

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] :  

[メイン2] スイムスイム : そうして時は流れ─────

[メイン2] スイムスイム : 「………………」

[メイン2] スイムスイム : その日は、ざあざあ降りだった。冷たい水に体を濡らされながら。

[メイン2] スイムスイム : どんよりとした空の下、スイムスイムは─────

[メイン2] スイムスイム : ポタ……ポタ……

[メイン2] スイムスイム : その手に持つ禍々しい形をした槍の先から

[メイン2] スイムスイム : 赤い液を

[メイン2] スイムスイム : ポタ……ポタ……と落とし

[メイン2] スイムスイム : 赤い水たまりを、作っていた。
スイムスイムの横には─────

[メイン2] : ─────魂を失った、血塗れの少女が、横たわっていた。

[メイン2] スイムスイム : 「…………お姫様になるため」

[メイン2] スイムスイム : そう、ぽつりと呟き。

[メイン2] スイムスイム : 水たまりの中へ、身を沈めていった─────。

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム :  

[メイン2] スイムスイム :